糖鎖分野を切り拓く新たな分析キットを発売

2019年06月13日


住友ベークライト株式会社(本社:東京都品川区、社長:藤原一彦)は国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長:中鉢良治、以下「産総研」)との共同研究の成果に基づき、このたび、糖タンパク質からO型糖鎖(ムチン型糖鎖)を簡便かつ迅速に切り出し、精製、蛍光標識する「EZGlyco® O-Glycan Prep Kit」を開発しました。5月より国内販売を開始しており、さらに近日中に米国、欧州、中国、韓国をはじめ海外でも販売を開始します。本製品は産総研 創薬基盤研究部門 亀山昭彦 上級主任研究員の研究成果によるO型糖鎖切り出し法をもとに、当社が糖鎖調製キットとして製品化したものです。切り出し法については2019年4月2日にBiochemical and Biophysical Research Communications誌にオンライン掲載されました。さらに本製品には新開発の糖鎖精製用樹脂が含まれ、糖鎖の中でも分子サイズが小さいために従来難しかったO型糖鎖の回収が確実かつ容易なものとなっています。

https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2019.03.144
A. Kameyama et al., A practical method of liberating O-linked glycans from glycoproteins using hydroxylamine and an organic superbase
Biochemical and Biophysical Research Communications, 2019 (in press, open access)

O型糖鎖とは

糖鎖は私たちの体を構成する重要な生体分子の一つであり、以前から糖鎖と疾患との関係が積極的に研究されています。体内の多くのタンパク質には糖鎖が結合しており、たとえアミノ酸配列が同一のタンパク質であっても糖鎖の構造及び量によってその性質は大きく異なります。従って、糖鎖は抗体医薬などのバイオ医薬品の機能、動態、安定性に大きく影響を及ぼすことが知られているほか、幹細胞マーカーや疾患関連バイオマーカーとしても着目されています。

タンパク質に結合している糖鎖には主に、N型とO型の2種類の糖鎖が存在します。酵素によってタンパク質から容易に切り出すことが可能なN型糖鎖に比べて、O型糖鎖は長時間の化学反応によって切り出され、その際には分解を伴うことも多く、O型糖鎖の分析は大きく遅れをとってきました。そのため、糖鎖バイオマーカー探索やバイオ医薬品の糖鎖解析(不均一性評価など)を加速する確実かつ簡便なO型糖鎖調製法が望まれていました。


新製品EZGlyco® O-Glycan Prep Kitについて

今回提供を開始する新製品「EZGlyco® O-Glycan Prep Kit」は、タンパク質のO型糖鎖分析を飛躍的に容易化し、その研究のすそ野を大きく広げるための研究用ツールです。同梱されるプロトコル(操作手順書)に従って操作することで、糖タンパク質検体からのO型糖鎖の切り出し、精製、蛍光ラベル標識までの操作を安全かつ簡便・迅速に行うことが可能で、分析対象である糖鎖試料の調製がおよそ5時間で完了します。従来は危険な試薬を使用し、2~3日かかっていた時間と煩雑な操作を短縮化・簡略化するとともに、必要な試薬を全てキットに同梱することによって操作性の向上が図られています。「EZGlyco® O-Glycan Prep Kit」を提供することで、O型糖鎖バイオマーカー探索やバイオ医薬品の糖鎖解析に対して初めて実用的な環境を研究者に届けることが可能となりました。今後は、これまでとは異なる視点に基づく新たな診断法の開発やバイオ医薬品の研究開発・品質管理に役立つことが期待されます。

EZGlyco® O-Glycan Prep Kit製品イメージ

EZGlyco® O-Glycan Prep Kit製品イメージ

技術の詳細

O型糖鎖はアルカリ性溶液中で加熱することでタンパク質から切り出されますが、すぐに分解してしまうことが課題でした。本技術はO型糖鎖をタンパク質から切り出すための試薬として有機強塩基を、また分解を抑制する目的で反応性の高いアミン系化合物を用いた、従来法よりも格段に分解物の少ないO型糖鎖切り出し法です。本製品では従来法の10分の1程度の短時間でO型糖鎖を切り出すことが可能です。多検体の迅速な分析が求められるバイオ医薬品の糖鎖解析や糖鎖バイオマーカー探索などへの新たな貢献が期待されます。



関連情報

本件に関するお問い合わせ

住友ベークライト株式会社 ヘルスケア営業本部 バイオ事業開発部 島岡
Tel:03-5462-4831    E-mail: s-bio@sumibe.co.jp